
音楽は神話の世界でも特別な力を持つものとして語られます。スラヴ神話においても、神々や英雄たちが奏でる楽器には神秘的な力が宿っており、戦士を奮い立たせたり、魔物を退けたりすることがありました。さらに、楽器は神々と人間をつなぐ神聖な道具としても使われ、音楽が持つ魔術的な要素が色濃く反映されています。
今回は、スラヴ神話に登場する代表的な楽器と、それにまつわる伝説を紹介していきます!
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グドーク(またはグースリ)は、スラヴ圏で最も古い弦楽器の一つとされ、竪琴やリュートに似た形を持ちます。奏者が弦をかき鳴らすことで、美しくも荘厳な旋律が響き渡り、特に吟遊詩人や神話の英雄が愛用した楽器でした。
この楽器を最も巧みに操ったのが、スラヴの伝説的な詩人であり英雄でもある「ボヤン」です。ボヤンは単なる音楽家ではなく、未来を見通す力を持つとされ、神々の意志を伝える預言者でもありました。
ある日、ボヤンが宮廷でグドークを奏でると、その音色に導かれて大地の精霊が姿を現しました。精霊たちはボヤンの音楽に感動し、彼に「言葉の力」を授けました。以降、彼が歌う物語は現実となり、人々の運命を左右するものとなったのです。この伝説は、スラヴ世界における詩と音楽の神聖さを象徴しているといえるでしょう。
トルンバは、長い木製の角笛で、特にカルパティア山脈の地域で使用されました。その響きは遠くまで届き、羊飼いたちが合図として用いるだけでなく、精霊や神々への祈りを捧げる神聖な道具でもありました。
伝説では、カルパティア山脈に住む狩人たちや聖なる巫女たちが、この楽器を操っていたとされます。彼らはトルンバを吹き鳴らし、天候を操ったり、悪霊を退けたりしたと伝えられています。
ある厳しい冬、村人たちは雪崩の危険にさらされていました。そこで、ひとりの若い狩人が山の神に祈りを捧げながらトルンバを吹き鳴らしました。すると、空に雷鳴がとどろき、雪崩は奇跡的に止まったのです。以来、トルンバは「山の精霊と交信する楽器」として崇められるようになったといわれています。
ブビンは、スラヴの戦士たちが戦場で用いた太鼓です。その力強い音は軍勢の士気を高め、時には神々をも呼び寄せると信じられていました。
この太鼓を最も有名にしたのが、スラヴの英雄「イリヤー・ムーロメツ」です。彼はこの太鼓を使い、神々の加護を得ながら戦いに挑みました。
ある戦の際、イリヤーは敵軍に包囲されていました。絶望的な状況の中、彼はブビンを打ち鳴らし、雷神ペルーンに助けを求めました。すると雷鳴が轟き、稲妻が敵軍を直撃。これによって戦況は逆転し、イリヤーは勝利を収めることができたのです。この出来事以来、ブビンは「神の戦鼓」として、スラヴの戦士たちにとって特別な意味を持つ楽器となりました。
スラヴ神話には、ただの楽器ではなく、神々や精霊と通じる特別な力を持つ音楽が数多く登場します。グドークの神秘的な音色、トルンバの祈り、ブビンの戦場を揺るがす響き—それぞれが異なる役割を持ち、スラヴの人々の信仰や文化に深く根付いていたのです!