ウクライナに伝わる民間伝承・神話・伝説

ウクライナは、広大な草原と豊かな森、ドニエプル川を擁する国であり、古くからさまざまな神話や伝説が語り継がれてきました。スラヴ神話の影響を強く受けつつも、ウクライナ独自の伝承が発展し、神秘的な精霊や恐ろしい怪物、勇敢な英雄が登場する物語が豊かに残されています。これらの伝承は、単なる昔話ではなく、ウクライナの歴史や民族意識を反映した大切な文化遺産なのです。

 

本記事では、ウクライナに伝わる代表的な民間伝承や神話、伝説を紹介します。それぞれの物語の背景や意味を探りながら、ウクライナ文化の奥深さを感じていただければと思います。

 

 

モクロヴィンツィ:水辺に潜む霧の精霊

ウクライナの伝承には、「モクロヴィンツィ」と呼ばれる霧をまとった水の精霊が登場します。彼らは湖や川辺に住み、霧の立ち込める朝や夕暮れに姿を現すとされ、人々を水の中へと誘い込むと信じられています。

 

モクロヴィンツィは、ただ恐ろしい存在ではなく、水を清める力を持ち、自然のバランスを守る存在とも考えられていました。そのため、昔の人々は川や湖に供物を捧げ、彼らの機嫌を損ねないようにしていたのです。この伝説は、水の持つ神秘的な力と、自然への畏敬の念を表しているといえるでしょう。

 

ニコラスの剣:コサックの英雄伝説

ウクライナの伝説には、コサックの勇敢さを象徴する物語が多く残されています。その中でも、「ニコラスの剣」の話は特に有名です。

 

ある日、貧しいが誇り高いコサックの戦士ニコラスは、旅の途中で不思議な老人に出会います。

 

その老人は

 

正義のためにのみ戦うならば、この剣を授けよう

 

と言い、魔法の剣を手渡しました。

 

ニコラスはこの剣を使い、多くの敵と戦い抜きましたが、決して私利私欲のために振るうことはありませんでした。

 

しかし、ある日、怒りに任せて剣を抜いた瞬間、剣は砕け散り、彼の力も失われたといいます。この物語は、ウクライナ人の自由と正義を重んじる精神を象徴するものとして、語り継がれているのです。

 

ヴィイ:死をもたらす魔王

ウクライナの民間伝承の中でも、特に恐ろしい存在がヴィイです。彼は、目を閉じたまま眠り続ける巨大な魔王で、まぶたを開けばその視線だけで命を奪うといわれています。

 

この伝説をもとに、ウクライナの作家ニコライ・ゴーゴリ(1809–1852)は『ヴィイ』という短編小説を執筆し、ヴィイの伝説は世界的にも知られるようになりました。物語の中では、神学校の生徒がある村で怪奇現象に遭遇し、ついにはヴィイと対峙することになります。

 

このように、ウクライナの民間伝承には、神秘的な精霊や勇敢な英雄、恐ろしい魔王など、さまざまな存在が登場します。どの伝説も、ウクライナの自然や歴史、民族の誇りを映し出しており、今なお多くの人々に語り継がれているのです!