
スラヴ神話における「悪魔」は、キリスト教の影響を受ける以前から存在していたものの、後にキリスト教の概念と融合し、より邪悪な存在として認識されるようになりました。しかしスラヴの悪魔たちは、人間を惑わせたり、災厄をもたらしたりしますが、必ずしも絶対的な「悪」として描かれるわけではありません。本記事では、そんなスラヴ神話に登場する代表的な悪魔の種類とその特徴を詳しく解説します。
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チェルトはスラヴ神話における典型的な悪魔の一種で、ヨーロッパの一般的な「悪魔」のイメージに最も近い存在です。山羊の足、角、尾を持ち、人間を誘惑し、魂を奪うとされます。
チェルトは悪賢く、契約を結んで人間に富や権力を与えるものの、最終的には相手を破滅させることが多いです。中にはいたずら好きな性格のチェルトもおり、単に人間をからかうことを楽しむ者もいます。
キリスト教化が進んだ後、チェルトはキリスト教の悪魔と同一視され、地獄の住人として描かれるようになりました。
ヴォジャノイは水の悪魔で、川や湖に住み、漁師や旅人を溺れさせるとされます。緑色の肌を持ち、藻や魚のうろこで覆われた老人の姿をしており、水辺で不用意に騒ぐ者や、川のルールを破る者に対しては特に厳しく、彼らを水底へ引きずり込むと言われています。
しかし、ヴォジャノイは一概に邪悪な存在ではなく、適切に敬意を払えば人間と取引をすることもあります。漁師が彼に供物を捧げれば、大漁をもたらすこともあると信じられていました。
キキモラは家に取り憑く悪霊で、特に家庭内の不和や怠惰を好むとされます。夜中に不気味な音を立てたり、家の中の物を動かしたりすることで住人を苦しめます。
彼女は家を清潔に保ち、秩序を守ることで影響力を弱めることができるとされており、また、特定の呪文や護符を使うことで、キキモラを追い払うことが可能だと信じられていました。
ノチニツァは「夜の悪魔」とも呼ばれ、特に子どもを狙う存在です。彼女は夜中に現れ、寝ている子どもの夢に入り込んで悪夢を見せたり、息苦しくさせたりするとされます。
ノチニツァを防ぐためには、子どもの枕元に鉄の針やナイフを置くとよいとされており、これはノチニツァが鋭利な金属を恐れると信じられていたためです。
リハーイは風を操る悪魔で、特に嵐や暴風雨を引き起こす存在とされます。農民にとっては恐ろしい敵であり、作物をなぎ倒し、村を荒廃させることもあります。
リハーイを鎮めるためには、特定の儀式を行い、彼に敬意を示す必要があったと言われています。また、一部の伝承では、雷神ペルーンがリハーイを追い払うとされており、雷が鳴るとリハーイが逃げていくと信じられていました。
スラヴ神話の冥界の神ヴェレスは、もともと悪魔ではなかったものの、キリスト教化の影響でしばしば悪魔と結びつけられるようになりました。彼は家畜や豊穣を司る神である一方で、死後の世界を支配する存在でもあり、ペルーンと対立することが多かったと言われています。
そしてキリスト教が広まるにつれ、ヴェレスはしばしばサタンと同一視され、蛇や竜の姿を持つ「邪悪な神」として語られることが増えました。しかし、民間伝承の中では今なお「豊穣をもたらす神」としての側面を残しており、単なる悪の象徴とは異なる存在として扱われているんですね。
スラヴ神話における悪魔は、単なる邪悪な存在ではなく、自然の力や秩序の一部として機能することが多いです。彼らは人間を試し、時には罰を与えますが、正しい方法で接すれば危険を回避することも可能であると言われています。こうした悪魔たちは、スラヴの民間伝承の中で今なお生き続けているのです。