スラヴ神話における「妖精」「精霊」の種類と特徴

スラヴ神話には、自然界のあらゆる場所に「妖精」や「精霊」が宿ると考えられていました。森、川、家屋、畑などにそれぞれ異なる精霊が存在し、人間と共存することもあれば、時には恐ろしい力を持って害をなすこともあります。本記事では、スラヴ神話に登場する妖精や精霊の種類とその特徴を詳しく解説していきます。

 

 

森や山に住む精霊

スラヴ神話では、森や山は神聖な場所であり、多くの精霊や妖精が住んでいると考えられていました。

 

レスヒー

レスヒー(Leshy)は森を守る精霊で、人間を森で迷わせることで知られています。通常は長い髪と青白い肌を持つ巨大な男の姿をしていますが、森に溶け込むためにサイズを変えることができ、小さな子どもほどの大きさになったり、木々よりも高くなったりすることもあります。

 

レスヒーは、森の動物と意思疎通ができ、狩人がむやみに動物を殺すことを嫌います。彼を怒らせると、嵐を起こしたり、獲物を見つけられなくさせたりするため、狩人たちは森へ入る前に彼へ供物を捧げる習慣がありました。

 

ボルヴァヌイ

ボルヴァヌイ(Bolvanoy)は、山や岩場に宿る精霊で、特に古い洞窟や石の間に棲むと考えられています。彼らは気まぐれな性格を持ち、旅人を道に迷わせることがありますが、敬意を払えば守護者のような存在となり、洞窟内の道を安全に案内してくれることもあるといわれています。

 

水に住む精霊

スラヴ神話では、水は生命を生み出すと同時に、恐ろしい力を持つ存在ともされていました。川や湖、泉には強い力を持つ精霊が住んでおり、人間に試練を与えることもありました。

 

ルサルカ

ルサルカ(Rusalka)は、水辺に住む女性の精霊で、元は溺死した若い女性の魂が精霊となったものとされています。彼女たちは美しい姿をしており、夜になると水辺に現れ、歌を歌ったり踊ったりすることがあると信じられています。

 

しかし、ルサルカは決して無害な存在ではありません。時には人間を誘惑し、水中へ引きずり込むともいわれ、特に若い男性が狙われやすいとされていました。そのため、ルサルカの住むとされる川や湖では、特定の儀式を行い、彼女たちの怒りを鎮める必要がありました。

 

ヴォジャノイ

ヴォジャノイ(Vodyanoy)は、川や池に住む水の精霊で、しばしばヒゲを生やした老人の姿をしています。彼は漁師や水運業者にとって重要な存在で、彼を怒らせると魚が獲れなくなったり、船が沈んだりすると信じられていました。

 

ヴォジャノイをなだめるために、漁師たちは水辺でパンや酒を供物として捧げる習慣がありました。もし彼を味方につけることができれば、漁場を教えてくれたり、大漁をもたらしたりするともいわれています。

 

家や農場に宿る精霊

スラヴ神話では、家や農場にも精霊が宿り、人々の生活を見守ると考えられていました。これらの精霊は、敬意を払えば幸福をもたらしますが、粗末に扱うと災いをもたらすこともあります。

 

ドモヴォイ

ドモヴォイ(Domovoi)は、家の守護精霊であり、家族と共に暮らす存在です。彼は通常、小柄な老人の姿をしており、夜中に家の中を歩き回ることがあるとされています。

 

ドモヴォイは家族の調和を大切にし、家の主人が優しく働き者である場合には家を守り、家畜の世話を手伝ってくれることもあります。しかし、家の中で争いや怠惰が続くと、彼は怒って騒音を立てたり、家具を壊したりすると信じられていました。ドモヴォイを喜ばせるために、家の片隅にパンや牛乳を供える習慣がありました。

 

キキモラ

キキモラ(Kikimora)は、ドモヴォイとは対照的に、家に災いをもたらす邪悪な精霊です。彼女は夜中に奇妙な音を立てたり、夢の中で悪夢を見せたりすることで、人間を不安に陥れます。

 

キキモラを家から追い出すためには、特定の呪文を唱えたり、家の四隅に塩をまくと効果があると信じられていました。また、家を清潔に保ち、家族が仲良く暮らすことで、キキモラが住み着かなくなるともいわれています。

 

畑や草原に宿る精霊

農耕を重視していたスラヴ民族にとって、畑や草原の精霊は特に重要な存在でした。これらの精霊をうまく鎮めることで、豊作をもたらすと信じられていました。

 

ポレヴィーク

ポレヴィーク(Polevik)は、畑や草原に宿る精霊で、農作物の成長を見守る存在です。彼は昼間は姿を現さず、夕暮れや夜になると畑を歩き回るといわれています。農作業を怠る者には罰を与え、逆に勤勉な農夫には豊作をもたらすことがあるとされています。

 

ズミヤ

ズミヤ(Zmiya)は、草原や丘に棲む蛇の精霊で、土地の力を象徴する存在です。彼らは古代の蛇神ヴェレスと結びついており、農地の守護者として崇拝されていました。ズミヤを敬うことで、畑の病害を防ぎ、豊かな収穫を得ることができると信じられていました。

 

スラヴ神話に登場する妖精や精霊は、自然界のあらゆる場所に宿り、人々の生活に深く関わっています。彼らは敬意を持って接すれば幸運をもたらしますが、無礼な態度を取れば災厄をもたらすこともあります。スラヴ民族の世界観は、こうした精霊信仰を通じて自然と調和することを重視していたのです。